2017/09/09
この作品は『天使のような』の続編です。お読みでない方はまずは
『天使のような』前編からお読みください。
+++
天草裕里香――裕里香さんは、僕らのクラスの人気者、という表現ではとても収まりきらないくらい、誰からも好かれる女の子だ。
ぱっちりとした大きい目、透き通るような白い肌、ふるふるとした唇。スタイルの整った身体、程よく大きい胸。
僕だけじゃない。みんながその美しさに見とれていた。
裕里香さんはクラスの、いや学年中の男子の憧れの的だった。
その容姿だけではない。裕里香さんは天真爛漫で、素直で、誰にでも優しく接する。
嫌味なところがなく、その容姿を鼻にかけるようなこともしない。だから、男性だけではなく女性からも好かれる。
裕里香さんの微笑みは、すべての人を幸せにする。
その微笑みは――そう、まるでそれは天使のような。
しかし、その裕里香さんの「別の顔」を知っているのは、世界広しといえども僕だけだ。
そう、あの日から、裕里香さんは変わってしまった。
+++
「あぅん、あぁん、はぁ……すごい、いいよぅ……」
裕里香さんが一糸まとわぬ姿で、仰向けになった僕に跨りながら息を荒くして喘ぐ。
裕里香さんの部屋のベッドで、僕たちはこの数ヶ月、セックスばかりしていた。
裕里香さんのトロトロになった膣が僕のアレを的確に、吸いつくように刺激する。
その刺激で僕のアレは限界寸前まで大きく、硬く勃起し、それが裕里香さんの膣内をまた刺激する。
そんな無限にも思えるループに、僕たちははまり込んでいたのだった。
「見て、大木くん……私達、繋がっちゃってるよ。エッチだね」
先程から、僕に結合部位を見せつけるように少しのけぞるような体勢になり、僕の足に手を置きながら、身体を前後に揺するように動く。
裕里香さんの真っ白で、しなやかな肢体が前後するたびに結合部位を通して、僕に電流のように快感が伝わってくる。
裕里香さんは、最近は騎乗位がお気に入りのようだ。感じる部位を探しやすいらしい。
「ふああっ……ここ、すごい……やば……」
裕里香さんが口元に手をやりながら、顔を紅潮させて呟く。
どうやら感じる部位が見つかったようだ。
身体を前後するペースが緩やかになり、やがて上下の運動へと変わっていく。
「あ、ああぁ、ああ……」
声にならない声を上げながら、裕里香さんが一定のペースで上下する。
口元にやっていた右手は、裕里香さん自身の胸を揉みしだいていた。
裕里香さんが上下する度に胸にある大きな脂肪の塊も、上下にぶるんぶるんと揺れる。
メスの快感を得ることに夢中になった裕里香さんは、そんなことはお構いなしに動きの激しさを増していく。
裕里香さんから出た愛液が僕のアレに絡みつき、潤滑油の役割を果たしながら寄せては返す快感を与えてくる。
「うっ……裕里香さん、イキそう……」
僕が呟く。
「うんっ、私もイキそうっ……、一緒にっ、イこっ……?……あっ、あっ、ああああああん!!」
言うか言い終わらないうちに裕里香さんがひときわ大きい喘ぎ声を上げると、膣内がぎゅうっ、と僕のアレを搾り取るように何度か収縮する。
「ううっ……」
その締め付けで僕も裕里香さんの中に、大量の精液をぶちまけるように放出した。
「……はぁ」
しばらくヒクヒクと痙攣していた裕里香さんは、僕と繋がったままウットリと余韻を楽しんでいるようだった。
そのまま脱力するように僕の上に完全に乗っかってくる。
裕里香さんの汗で少し濡れた髪の毛が、僕の頬に触れる。汗と愛液の匂いが混じったような淫靡な香りが僕の鼻腔をくすぐった。
僕よりだいぶ小柄な裕里香さんは重くはないが、僕の胸板に、彼女の大きな胸が押しつぶされるように接触し、柔らかさが胸を通じて伝わってくる。
その感触に、さっき果てたばかりだというのに僕のモノはまた反応して硬さを取り戻していた。
「……またおっきくなってるじゃん……ぎゅー」
そう言いながら裕里香さんは、膣を自分の意志で締め、繋がったままの僕のモノを柔らかく締め付けてくる。
「くっ……」
裕里香さんは最近、明らかに女の身体の扱いに慣れてきている。
上目遣いで僕のことを見ながら、反応を楽しんでいる裕里香さん。
「ねえ、大木くん。私たちエッチの相性いいよね?大木くんのおチンチン大きくて、すごく気持ちいいよ。私、大人しく見えるかもしれないけど、本当はエッチな子だから……沢山しようね」
まだ顔を紅潮させながらそう言う裕里香さんの綺麗な顔を見ていたら、急に愛おしくなって抱き寄せ、キスを――
「……何やってんだよ、気持ち悪い」
僕のことを押しのけ、明らかに不快そうな裕里香さんの声を聴いてハッとする。
まただ。またやってしまった。
こいつは、目の前にいる「裕里香さん」は、裕里香さんであって裕里香さんじゃない。
そんな事、わかっているはずなのに。
「やれやれ、興ざめだ。最後まで『裕里香ちゃん』に成りきらせてくれよ。キスは生理的に駄目だって前も言ったろ?」
そう言いながら僕のアレを自分の身体からぬるり、と抜き、ベッドにあぐらをかいて座り込む裕里香さん。
「……悪かった」
なぜキスだけが駄目なのかはわからないが、「この男」はセックスは自分から進んでするくせに、キスは生理的に受け付けないのだ。
数ヶ月前。こいつは裕里香さんの身体に棲みつき、そして乗っ取った。
学校を無断で欠席していたので、心配して裕里香さんの家を訪ねた僕は、その乗っ取りの現場に遭遇した。
――そして、こともあろうか、この男の乗っ取りに手を貸してしまった。本物の裕里香さんは絶望の中で、この世から消滅した。
さらに、僕がやけになって裕里香さんの身体を抱いてしまったことで、この男は裕里香さんの記憶をも手に入れてしまったのだ。
それから、この男と僕は、ある種の「共犯関係」になってしまった。
「裕里香さん」は、僕を何度も性的に誘い、裕里香さんに元々好意を抱いていた僕もなし崩し的に何度も裕里香さんの身体を抱く関係になってしまったのだった。
その関係は、その男と僕とが、二人がかりで裕里香さんを抱くような行為だった。
こいつは、男の僕に興奮するのではなく、「自分が演じる女の裕里香さんの痴態に男として興奮していた」のだ。
先ほどまで言っていたセリフも、僕を喜ばせるためと言うよりは、男の自分が言ってもらいたいことを、自分の口から――裕里香さんの口から言わせているのだ。
「まぁ、お前のチンポと俺のこの身体の相性が良いのは確かだからな。今度は気をつけろよ?」
裕里香さんの可愛い顔に似合わない、下品な言葉を口にしながら、男みたいな表情で裕里香さんがニヤリと顔を歪める。
そして、僕のアレを人差し指で軽く弾いた。
「うっ……」
「お?」
ちょっとビックリしたように裕里香さんが言う。
「いやぁ~、やっぱ高校生ってのはサルみたいに元気なのな。さっき出したばっかだってのに、また勃起してきてるじゃねえか」
裕里香さんが、下卑た笑いを浮かべながらからかうように言う。
「こんな可愛い女子高生の裸を拝めるんだから、何回でもチンポおっ立っちまう気持ちはわかるけどよ。ま、俺は自分の身体だからいつでも拝めるんだけどな?チンポがねえのが残念だぜ、へへへ」
そう言いながら何回も勃起した僕のものを面白そうに何度も弾く。
「懐かしいなぁ、俺もこんな元気な時代あったのかなぁ」
「ううっ……」
落ち着け、落ち着け。こいつは裕里香さんじゃないんだ。
そう自分に言ってみても、学校のアイドルが僕の肉棒を興味津々で指で弾いている光景は、僕のものをさらに硬くするのには十分だった。
「……シゴいてやろうか?」
そう言うと裕里香さんは怪しげな笑いを浮かべながら、小さな手を軽く握り、肉棒を扱くようなジェスチャーを見せた。
「……」
僕が何も答えずにいると、それを肯定と取ったのか、裕里香さんはひひっ、と笑うと、口を半開きにした。
ぬらぬらと、裕里香さんの口から唾液が糸を引きながら出てくる。それを裕里香さんが手で掬う。
ほどなく、裕里香さんの手は自らの唾液でベチョベチョになっていた。
「後ろ向けよ」
言われたとおりに、僕は裸のまま裕里香さんに背を向けてあぐらをかいて座る。
すると裕里香さんの脚が、僕のあぐらの上に、さらにあぐらをかくように絡みついてきた。
「こうして固定して……」
僕の背中に、裕里香さんの胸が密着してくるのが感触でわかる。
裕里香さんの白く、小さい手のひらが僕のアレを握る。裕里香さんの唾液が手のひら全面についていて、潤滑油のようになっている。
「やっぱ俺のよりでけえ気がするなあ……それとも今の俺の手が小さいのか?」
そう言う裕里香さんの吐息が耳元にかかる。
「この向きじゃねえと、いつも俺がしてたみたいに出来ないからな。まあ、俺のオッパイ押し付けてやるから、我慢しろよ」
そう言うなり裕里香さんは僕の肉棒を扱き始めた。
「お、この体勢だと俺が自分のチンポをシゴいてるみたいでいいなっ」
「うううっ」
先ほどの膣内とは別の種類の快感が僕を襲った。
裕里香さんの右手が、僕の亀頭や裏筋を執拗に責め立てる。単調な動きではなく、唾液を潤滑油にして滑らせたり、微妙な動きで握ったり、ぐりぐりと刺激を与えてくる。
「すげえだろ?お前の大好きな裕里香ちゃんの手が、男みたいな慣れた動きでお前のチンコを扱いてるんだぜ」
裕里香さんが僕の後ろで、鈴のなるような声でささやく。
「『あぁ~裕里香さん、僕裕里香さんのこと大好きです、こうして男みたいな手つきで扱かれてるなんて夢みたいです、やばい、すぐイキそう……』。へへへ、興奮するだろ?」
僕の口調を真似ながらも、肉棒を扱く右手の動きを緩めようとはせず、むしろ激しさを増していく。
「俺も男だった頃に裕里香ちゃんにシゴいてもらいたかったぜ……考えるだけでちょっと濡れてくるな」
そう言うと裕里香さんは、空いていた左手で僕の乳首をコリコリを弄りだした。
「どうよ、俺の手と俺のマンコ、どっちのほうが気持ちいいんだ?ほら、イッちゃえよ、あっイクっイクっ」
興奮を加速させるように裕里香さんが男口調で言いながら、背後から胸や下半身を押し付けてくる。
たまらず僕は、裕里香さんの手の中に今日二回目の精液を放出した。
+++
「先にシャワー浴びてくるぞ」
「……ああ」
「あーあ、また大量にぶちまけやがって……これだから盛りのついたガキは……って、俺も今は同い年だったな。華のJKよぉーん、なんてな、ハハハ」
そう言いながら二階にある裕里香さんの部屋から、一階にある風呂場へと遠ざかっていく声を聞きながら、僕はため息をついた。
裕里香さんの「別の顔」の正体がこれだ。
学校では記憶を使って完全に成りすましているから、「上品でお淑やか」「才色兼備のお嬢様」「スレたところがない美人」などと、評判が維持されているが、その本性はこの通り、ただの変態男なのだ。
こんなオッサンが今の裕里香さんの身体に入っている……などということを学校で発言しようものなら、おかしくなっていると思われるのは僕の方だろう。
そのくらい、あいつの「裕里香さんへの擬態」は言葉遣い、仕草、目線の置き方から笑顔の作り方まで完璧だった。
ただ、それでも隠しきれないものはあるのか、「ちょっと雰囲気がエロくなった」という評判は立っていたが、それは僕と付き合い始めたからだ、ということになり、逆に僕の評判が下がってしまったことまであった。
僕はといえば、この男を助けてしまったことを強く後悔していた。
その度、仕方なかったことだ、と自分に言い聞かせていた。
あのまま裕里香さんを助けてこの男を消滅させる事ができていたとしても、裕里香さんを誘惑に負けて襲っていた状況は弁解の余地がなかった。
そのまま警察を呼ばれてしまっていたことだろう。
そう言い聞かせるよりほかに、方法がなかった。
+++
「あー、やっぱシャワーはいいわ。昔は風呂なんて2日に1回でいいと思ってたけどよぉ、この身体になってからは妙に綺麗好きになっちまったな。お前もシャワー浴びてくれば?」
シャワーから出てきて、夏らしい白のミニワンピースに着替えた裕里香さんは、男っぽいがさつな動作でどっかりとベッドに腰掛けた。
下着を身に着けただけだった僕は、ああ、と生返事をしたものの、裕里香さんのワンピース姿と、浮き出ている身体のラインに目を奪われていた。
しかも、男の意識で足を広げてくつろぐ裕里香さんの足の間からは、水色のフリルのついたショーツが見え隠れしていた。
僕が凝視していると、裕里香さんの足が全開になり、下着が丸見えになった。
「やっぱ男って変態だよなあ。そんなに俺のパンティ見たいなら見せてやるよ。これ、裕里香ちゃんのお気に入りだったらしいぜ?」
ニヤニヤしながら言う裕里香さんに対して、僕は顔をそむけながら「足、ちゃんと閉じろよ」としか言えなかった。
「またそうやって強がるところがまだまだガキだよなぁ……しっかし、俺がフリル付きのパンティ穿いてるなんてなぁ。ちゃんと似合ってるだろ?」
そう言うと裕里香さんは立ち上がり、ワンピースの裾をめくり上げて僕に下着を見せつけてきた。
「ここ、チンコもねえんだよなぁ……ま、俺は女だから当たり前なんだけどな。うひゃひゃ、それにしてもいまだに信じられねえな」
そう言いながら、ガニ股になり、スリスリと自分の股の間を手で撫で上げる裕里香さん。
まるで痴漢が触るようなネットリした手つきだった。
「気づいてると思うけどよぉ、クラスの男ども、みんな俺のこと見てるよなぁ?胸とか尻とか、あらゆるところをさ。まぁそりゃそうだよな、そこらの芸能人とか女子アナより俺のほうが可愛いもんなぁ」
「……」
「やっぱり俺でヌイてんのかな?中身が俺だとも知らずによ」
「……」
「あいつら、俺とセックスできるって言ったら何万まで出すのかね?」
「おい!」
「きゃっ!こわーい。そうだよね、裕里香は大木くんのものだもんねっ!」
わざとしなを作りながら可愛い声を出す裕里香さん。
「そうじゃなくて!」
「ハハハ、そう怒んなって。さて……」
そう言うと裕里香さんは立ち上がって、部屋用の小さい冷蔵庫を開けて、缶を取り出す。
「プシュッ」と小気味良い音がして、ゴクッ、ゴクッと裕里香さんの喉を液体が通る音がする。
「ぷはーっ、やっぱセックスしてシャワー浴びた後のビールは良いよなぁ!」
「……ビール?」
ぎょっとして僕は裕里香さんの方を見ると、銀色のよく見る缶ビールを片手にした裕里香さんの口に小さい白い泡が付いていた。
「……何やってんだ!未成年がビールなんて……」
「カタいこと言うなよ、中身はオッサンなんだからよぉ。ビールぐらい飲むわ」
「精神がそうでも、身体は17歳だろ!」
「俺がそのくらいの頃にはもう飲んでたし問題ねえよ……ヤニ入れてるわけじゃないんだしさ、頼むよ順也ちゃーん」
へらへらと取り合おうとしない裕里香さん。
「裕里香さんの身体に何かあったらどうするんだ!」
僕のその言葉を聞くと裕里香さんは一瞬驚いたような顔を見せたが、やれやれといった素振りで言った。
「あのなぁ、それ散々俺に中出ししといて言うセリフかね?」
「ぐっ……」
缶を片手に、部屋のドアを開けながら裕里香さんが続ける。
「お前調子乗ってるみたいだけどよぉ、そういう事言ってるともうヤラせてやんねーぞ?一応この身体を乗っ取る手伝いしてくれたから、感謝してるけどよ。もうこの身体は俺のもんなんだからな?ちょっとそこで頭冷やしてろ」
「う、うるさい!とにかく飲んじゃ駄目だ!」
「おい、やめろって」
部屋から出て、身をよじって逃げようとする裕里香さんに僕は追いすがり、ビール缶を奪おうとした。
階段のそばでもつれながら、危ないと思ったが、その次の瞬間にはもう手遅れだった。
「うわっ!」
階段を踏み外した裕里香さんと僕は、ゴロゴロと階段を転げ落ちていった。
頭を強く打ち、意識が朦朧とする中で僕は、魂が離れていくような感覚を味わっていた。
(後編につづく)